'13 Croatia

うつくしさ

戦争のことを話には聞いていても、頭では分かっているつもりでも、
本当は何も知らないのだと気づかされました。

深く刻まれた皺にはらはらと流れ落ちる涙を前にして、早まる鼓動と共にそこに立ち尽くし、おばあさんの肩に手を差し伸べ「辛い記憶を想い出させてしまってごめんさい」と、頼りない言葉を述べることしかできませんでした。
厚い大きな手で何度も何度も私の頬に手を当て、何度も何度も私を抱き寄せるその深い包容力。

家族を守り働いてきた手。粉々になってしまった廃墟から今日まで立ち上がり生き抜いてきた力。おばあさんの顔に刻まれた人生の年輪も、慈愛に満ちたあたたかく深い眼差しもとても美しいと感じました。

世の中に対する矛盾も、社会に対する不満も、彼らはじっと堪えてきたのでしょう。
そして今でも心に刻まれたその深い傷は消えることはないのです。

悲惨なニュースは絶えず耳に入るけれど、戦争がどんなものなのか本当は何も知らない。そして自国の平和な環境に気づく。

どうしてこの世界から争いが消えないのだろう。どうして仲が良かった隣人同士で殺しあわなければいけないのだろう。
わたしの想像を絶することがこの国で起きていたことに思いを巡らせたことがあっただろうか。
日本に住む私は、戦争が起きるなどという恐怖を想像できず、平和ぼけしている自分がいる。

―――「こうして生きているだけでも、本当に有り難いことなのよ。」

人生の中の幸福や、平和であることの美しさを心の底から知っているおばあさんの言葉が今も木霊するのです。