港に停滞していた Po… という頭文字だけが見える一隻の船に「もしかしたら、、、」と反応するMさん。
地元の人に確認すると、「あぁ、やっぱりそうだったのね。」と感慨深く船を見つめるMさん。
辺見庸さんの著書【もの食う人びと】の「魚食う心優しい男たち」という章の中に
ポビエドニク(勝利者)号という巻き網船が登場するのですが、Mさんが見つめるその船の文字はポビエドニクのPoだったのです。
Mさんは、内戦の最中逸見さんをご自身のHONDA(車)に乗せ、クロアチアを案内していたそうです。ちなみにMさんは、とても品のいい素敵な女性です。
信じられないくらい勇敢な話しだけれど、敵に狙い撃ちされる危険が伴う場所では車を猛ダッシュして潜り抜けたといいます。
その時に乗船したポビエドニク号が二十年近い時を経てぽつねんと目の前に存在しているのですから、何かを深く感じていたに違いありません。
私たちがつい軽い気持ちでMさんの手料理を食べたいなどと口にしてしまいましたが、Mさんは最終日にご自宅へ招待してくださいました。
花束を抱えてトラム(路面電車)に乗り込み M邸へ向かう途中、車内の座席で隣り合わせたおかあさんに私は「一緒に写真に写って下さいますか?」
と、言葉が全く通じないのだけれどニュアンスで伝えてみました。
おかあさんはしきりに照れながら笑い、私を何度も抱き寄せ、肩にキスをし、
私が電車を降りるとき「Hvala(フヴァラ)」とお礼を言うと、また私を抱き寄せ、頬にキスをし、私が降りてからも電車の中から手をふって投げキッスをくれたおかあさん。
本当にこの国の女性はどうしてこんなにあったかいのだろう。
遠い異国の地で、Mさんが心を込めてふるまって下さった手料理。
異国で食べる茄子とインゲンの素揚げ、おにぎり、梅干し、そうめん、創造的なハートのたまご焼き、酢の物、そして白玉あんみつ。
体は正直なもので、わたしの胃袋はクロアチア料理で充分満足していたはずなのに、この日ばかりは食欲がいつにも増して
おにぎりが何個でも入ってしまう勢い。食欲に歯止めがきかなくなり危険でした。
別れ際、また玄関先で私を強く抱きしめ、頬にキスをくれたMさん。
この国で私はどれほど熱い抱擁を受け、あったかいハートに触れたことでしょう。
そのハグは息が止まりそうなくらい力強いのですから、クロアチアンハートの強さを決して忘れるものですか・・・。
Hvala! また会う日まで!