イタリア出身でありながら、スイスに拠点を置きアルプスを描き続けた画家ジョヴァンニ・セガンティーニ。
スイスのサンモリッツにあるセガンティーニ美術館でオリジナルを拝見しましたが、何しろ絵が放つ光と、細かい描き方に圧倒されます。
特に巨大なキャンバスに描かれた三部作「生」、「自然」、「死」が展示されている部屋に足を踏み入れると、息をのみ言葉を失ってしまうほどの衝撃を受けました。おもわず、絵の中の光に手を合わせて拝みたくなってしまうほど。
まるで自分が絵の一部になりその光を浴びているような感覚にも陥りました。
そして彼が晩年を過ごしたという山の頂にある小屋を私も実際に目指しました。
山頂に辿りついた頃はもう日没間近。
あたり一面真っ白なアルプスの山並みで、沈む夕日がその雪山をロゼに染めていくのです。紫の空にぽっかり浮いた丸くて白い月。眼下には家々があかりを燈し始めきらきらと光るサンモリッツの町。
山頂で目にしたものはこれまでにないほどロマンティックで神秘的な光景でした。
そこに流れていた静粛さ、澄み渡った空気、変わることのない穏やかな山並みは魂まで洗われていくような時間。
セガンティーニがアルプスの山々を愛したのも、ここに来て少しだけわかる気がしました。