DIARY

初雪

「今日は成人式を迎える人たちも大変だわ」と思案しながら、私自身も着物に草履の装いで雪道を慎重に歩き、日本舞踊のお師匠さんの新年会へ。二十人ほど集った都内某ホテルの和食処。しんしん降り積もる静かな雪景色とは対照的に「わっはっはー!」と笑い声が響く賑やかな個室内。ほろ酔い加減でおしゃべりに花が咲き、ついつい騒いでおりましたら、「本日はあなた方の成人式ではないのですよ。先生の新年会でございますよ。」と一言先輩に注意され
、「はーい!」と返事をすると
「ちっとも悪いと思っていないわね」と、また叱られ(笑)  目上の方のお話に耳を傾け、聞こえてきたのは何ともアナログな会話。「スマートフォンというのはどうも慣れなくてね、指を横にサーッと滑らせると
電話の中身もどこかへ一緒に流れていって仕舞いそうな気がするのよ。」と、ファーストフードとスローフードほどに違う世界観。

お稽古に通っていた初期、私はお師匠さんに勇気を出して尋ねてみました「踊りを録画しても良いですか?」。すると「いけません。そういうことをすると、ここ(稽古場)できちんと覚えないから。」とお叱りをいただき、大いに納得したものです。先生はメモを取りませんし、スケジュールを記入されているところをお見掛けかけしたことがないのですが、それでもきちんと記憶し頭の中に入ってらっしゃる。私などメモをした矢先に安心感から忘れてしまい頭に入っていないのですから、感心してしまいます。体にしみ込ませることが何よりも大事なのですね。便利が進むにつれ人間は退化すると、最近頻繁に実感しております。

「背中!」「腰!」と喝を入れられた、かつての厳しいお稽古を皆それぞれに思い出し「先生、私、先生のおかげで社内でも姿勢が良いと誉められるのよ!」と一人が声を大にして伝えると、次々に「私も!」と賛同の声。たしかに皆さん驚くほど姿勢が美しく、油断すると丸くなりがちな私の背中も凛と刺激を受けました。先日、白隠展にて
「子孫に、金を残しても仕方がない。書物を残しても読みやしない。それよりも、徳を積みなさい。」という禅画のメッセージが深く心に沁み入りましたが
、先生もきっと陰でたくさんの徳を積まれていらっしゃるのでしょう。戦中、戦後のお話も多くは語られませんが、先生のお背中に滲み出る忍耐や強さ、優しさ。学ぶことが多いのです。

それにしても和服は、歩き方や姿勢、所作を楚々としたものに変えてしまうのですから良いものですね。
洋服には洋服の美しさもたくさんありますけれど、日本に着物姿が増えるとより素敵だなと思いました。

雪が降ると日頃見慣れた風景もがらりと変わりますね。
こんなふうに四季を楽しめる日本人であることはとても嬉しく、有り難いこと。

「わー、綺麗。よく見ておきましょう。思い出に残る初雪ね。」
と雪景色を愛で、笑いの絶えない華やかな初雪の一日となりました。

雪東京・初雪

柘榴お着物